赤いマフラー

 小学生の頃、一年中半袖で過ごすクラスメイトがいた経験はありますか。

 ある少年も、これに似た出会いをしました。少年が出会ったのは、一人の女の子でした。性格などは至って普通の、少し照れ屋な女の子でしたが、一つだけ変わっているところがありました。
 それは、赤いマフラーを着けていることでした。しかも、一年中です。

 少年は、この女の子に不思議な魅力を感じ、思い切って話しかけました。

「ね、ねえ」
「……。」

 女の子は恥ずかしがって目を合わせてくれませんでした。

「えっと、昨日のテレビ見た? お侍さんが、悪い奴をやっつけるっていう」
「……見たよ」
「ほ、ほんと!?」

 しかし、二人は意外にも話題が合い、仲良くなりました。
 中学、高校と同じ学校になったことで、少年はますます縁を感じるようになり、少年は遂に告白しました。

「僕と付き合ってください!」
「……うん。いいよ」

 女の子は未だに目を合わせてはくれませんが、口元をマフラーで隠しながら、頷きました。
 大学生になった青年は、大学卒業を期にプロポーズをして、彼女と結婚したいと思うようになりました。そのため、勉強と共にアルバイトも一生懸命やりました。

 そして、卒業式当日。

 式の帰りに、彼女を大学近くの公園に呼び出しました。公園には、二人以外誰もいません。青年の手には、この日の為に勝っておいた指輪入りのケースが隠されています。

「僕と、結婚してください」

 青年はすかさず指輪を差し出しました。彼女はやはり目を合わせてくれません。
 暫く沈黙が続きましたが、遂にマフラーの隙間から、小さな声で、

「はい」

 と、彼女からの返事が来ました。青年はとても喜びました。すると、彼女は「だけど」と呟きました。

「そうなったら、もう隠しきれないね」

 彼女の手が、首元の赤いマフラーへと伸びました。
 青年は今の今まで、彼女がマフラーを外しているところを見たことがありませんでした。そのためか、プロポーズ成功の喜びも忘れ、赤いマフラーを見つめていました。

 彼女がマフラーをするりと外すと、ドサッと音を立てて地面に落ちました。

 青年は思わず、落ちたマフラーを見ました。マフラーはボールのように丸まっています。
 恐る恐る、巻かれているマフラーの端を掴み、ゆっくりとめくりました。

 その時です。
 青年が、初めて彼女と目を合わせたのは。